末廬國より
(昭和41年3月20日刊行)

旧家の由緒

坂本智生

唐津 材木町



 
捨浜を船着場に
 材木問屋は宮崎姓
    船大工の町でもあった


 材木町の由緒については、松浦要略記につぎのような記事がある。
 材木町は、惣町御取立ての時、捨浜にて候ところ、志摩守様天守台より勧遊覧被成候折、城下に船着きの所これなく侯間、水堀ほらせる様被仰付、町奉行役人入江吉兵衛殿御吟味なされ侯処、播磨国太之木重左衛門と申す者、商に参り居る者取立申候て諸役免許等の次第、材木町古来書に出る″
唐津町十ニケ町のうち、町古来書が少しでもわかるのはこの町だけである。


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 材木町は、材木、竹、薪、木炭について特権をもった町であった。以上の品々は、材木町の者の手を経ずして取引きすることが出来なかった。
 唐津領の材木や竹材などの建築材料を一手に取扱った材木問屋は、いづれも宮崎姓を名のった伊兵衛、半助、甚右衛門の三家であった。屋敷は現在の浦島通りの西並び、魚屋町境から塩屋町本丁通りの突当り辺りにかけて、三家が軒を連ねていた。当時は、裏の町田川も川幅がもっと広く、材木の置場に使われていた。伊兵衛家は
のちに、現在の青果市場の辺に移って家業を続けたが、半助家は刀町に移り、甚右衛門家は土木請負などをやっていた。三家とも屋号を材木屋といったが、甚右衛門家は別に尾張屋ともいったらしい。


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 材木町の町年寄を代々勤めた平松家は屋号を炭屋といったが、木炭問屋だったかどうか不明。紺屋や糀屋などをやっていた形跡はある。屋敷は現在の伊東油屋辺り。
 材木町の町年寄は平松家のほか、材木屋の三宮崎家が交替?で勤めているようだが、この材木町年寄は塩屋町と兼帯なので、受持区域が広いせいか、定員二名のほかにも一名、町年寄加役が任命されている。
 町年寄加役を勤めた木山八郎右衛門という人は、当時松屋と呼ばれた造り酒屋の屋敷内に住んでいたが、もとは奈良屋という造り酒屋の出身らしい。奈良屋は事業に失敗して家屋敷を魚屋町の山内小兵衛家に売渡しているが、その家屋敷が松屋のそれと同じか、また現在の中央大劇のところか不明である。松屋は現在の渕田酒屋辺り。中央大劇のところには、明治初年まで、木屋一族の山内太平が住んだ。
 材木町は船大工の町でもある。唐津領の船大工は材木町・新堀に集められ、唐津藩御船方の緊急の用に備えられていた。のちには、漁村や島などへ出張して現地で船を造ることもあって、自然とその地に居付く者もいたが、呼子などの場合を除いてはきぴしく取締られている。
 船大工のなかで棟梁を勤めたり、町の組頭を勤めたり、役所の御用を勤めて苗字を許された者に、落合新七、佐々木嘉平、森田平助、江藤定蔵などという人がいる。落合、佐々木は船大工棟梁、材木町組頭を勤めており、落合新七は地方役所御用井樋大工をも勤めている。棟梁は領内居住の職人取締りとして町奉行から任命されていた。落合新七家は現在の松屋の西隣り辺り。佐々木嘉平家は前川種物屋の辺りか。
 森田平助は紙方役所の重橋出張所建設に功労があって苗字御免となった。屋敷は現在のマルミヤ辺り。江藤定造は藩勧用船の建造に功労があり、呼子殿の浦にも造船所を持っていた。屋敷は現在の吉田氷屋辺り。
 材木町には当然船カヂが住んでいた。船カヂは別に仲間を結成せず、木綿町のカヂ棟梁の取締下にあった。材木町の船カヂで苗字もちは脇坂吉之助という人。この人は藩の武具方役所の御用を勤めて二人扶持をもらっている。屋敷は現在の坂平金属当り。また板屋と呼ばれた佐々木嘉右衛門家は船材の板を取扱ったものか。屋敷は現在の田村ガラスの辺り。柴田小兵衛という苗字もちが、現在の青果市場の東隣り辺りに住んでいるが、ここは木挽の棟梁などを勤めた家らしい。
 今は小公園になっている諌山病院の前辺りは藩の御用地で、土井の時代には御茶屋があったが、そのあと下級武士の住いとなり、安政年間には仕法方役所が設けられ、そのあと新成方などと呼ばれる役所となったが、明治初年には菊地文哉という医者が住んでいた。この御用地の西隣に稲荷社があって、満島山稲荷と呼ばれたのは、もと舞鶴公園の地にあったからだという。
 塩屋町という町名は、今ではほとんど忘れられているが、この町の本丁筋は、材木町や魚屋町と平行の通りである。現在の浦島通りの西並びは材木町だが東並びは、魚屋町境から現在のパリと呼ばれる店辺りまでが塩屋町。
 塩屋町には町年寄がいなくて、渡辺弥平という人が組頭を勤めている。この町には福成寺という寺が東の方にあり、田口姓、川崎姓の船問屋があった。船問屋といえば材木町にも堤姓の船問屋があったが、安政の頃には大石町へ移っている。材木町にはまた、岡部姓の御用紺屋もあったが、これも藩政の末に京町へ移った。





註:は管理人吉冨 寛が記す
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