昨今、城がブームという。歴史ファンというと中高年男性が主だったが、ゲームやアニメをきっかけに戦国武将や歴史に興味を持つ若者、女性が増え、私たちが欧州の古城に引かれるように、訪日外国人客が日本の城に足を運ぶ。
戦国期の築城ラッシュから400年前後の時期にあたり、姫路城をはじめ各地で修復や記念行事が行われ、さらには社会を覆う閉塞(へいそく)感が懐古的な歴史ブームを招いているという分析もある。
県内でも唐津城の入場者が増えている。2012年度は10万7千人台だったが、14年度は13万人に増えた。昨年度は耐震工事のため11月以降、無料開放したこともあって約16万人となった。
インバウンド効果も顕著だ。入場者のうち外国人が占める割合は14年度後半は3・8%だったが、昨年度は7・8%に増え、本年度は7月までで14%を超えた。
唐津城の天守閣は1966(昭和41)年10月に完成した。もともと天守閣はなかったが、天守台跡に「観光施設」として慶長様式の5層5階の天守閣を建設した。
当時、唐津市は財政再建団体から脱却したばかりで、年間予算の1割を超える1億5千万円の総工費をめぐって反対運動が起き、歴史家からも「史実に反する」と疑問の声が上がった。
曲折を経て天守閣が完成し、今年で50年。今では観光唐津を象徴するランドマークとなった。
北部九州には天守閣がそびえる城は少ない。小倉城も周辺はビルが建ち並ぶ。博多港に寄港したクルーズ船客や外国人旅行者は城下町のたたずまいを求めて唐津を訪れる。国内クルーズ船受け入れ体制が整った唐津東港は、唐津城を臨む眺望がセールスポイントだ。
そうした追い風の中で開館50周年事業として10月1日、記念式典を行い、天守閣の改修工事に入る。老朽化した展示ケースを改修し、デジタル機器を活用した案内設備を整える。併せて可搬型の階段昇降機の導入など高齢者や身障者も見学しやすいようにする。
天守閣は資料館を兼ねるが、唐津焼中堅作家が「展示内容は高校時代から変わらない」と言うように、古めかしく、代わり映えしない。駐車場とエレベーターを使うと、入館料と合わせ3回、料金を払うことになる。観光においてホスピタリティー(もてなし)が重視される今、磨き上げが必要だ。
熊本では地震で被災した熊本城の再建が復興の象徴となっている。古来、為政者は権威と力を見せつけるため高い建物を建てたが、それがいつしか、人々の心のよりどころとなり、まちづくりのシンボルとなった。
唐津の旧城下にそびえる天守閣が日常の風景となって半世紀。伝統に立った創意を観光諸施策に受け継いでいきたい。(吉木正彦)