虹の松原
唐津駅から東一里半、軌道約三十分
舞鶴公園からは公園の下で渡船に乗り松浦川を渡り、花の廓の満島を通り抜けて行く。虹の松原は唐津の生命で、仮にこの松原を取り去るならば松浦潟の風光は龍を書いて眼を点ぜぬ死書の類である。満島から浜崎まで二里の間は数百年を経たる老松が、翠を連ねて幾万株となく続いて居る、松林の中程、二軒茶屋と称するところに、数軒の茶店があって名物『松原おこし』を売って居る。
▲旅館、松林の中に海濱院、岡崎屋、松屋、新茶屋等がある。 夏季は海水浴客の為に多く満員勝である。














虹の松原と領巾振山
 東は玉島川の河口より西は松浦川の河口に至る延々五哩、南北約一哩、弓形の砂嘴上に大小幾十萬本ともなき翠松千年の緑を連ね、北には清澄限りなき松浦潟を控え、南には秀麗双びなきヒレフル山を望む、真に天下の勝地である。虹の松原駅は此の中央にある。
 ヒレフル山は虹の松原駅より南約五丁余、海抜二百八十五米突、山容整い八面玲瓏として松浦潟の玉座を占めて居る。萬葉集に『遠つ人松浦佐用姫夫恋ひにヒレ振りしより負える山の名』の一首此の山の伝説を物語って余りある。頂上は約五萬坪の、なだらかなる芝生で稲荷神社を祀り中央に神池あり、四時水を湛へて居る。古来松浦潟の風光は天下無比と称せられて居るが、此の山嶺よりの展望は真に麗朗の極致である、句あり。

 秋晴れや禰宜が指す神集島

 虹の松原駅下車  往復汽車賃 博多より金壱圓八拾銭 東唐津より金拾四銭




松浦潟小唄
  野口雨情
  秋田雨雀
  福田正夫  作歌 
◆松浦佐代姫 夫恋ふ石は
  燃ゆる心の 名に高い
  夢じゃないぞ江
  松浦潟よ
  大和ざくらの花が咲く
◆虹の松原 空にとかけて
  白い砂濱 海の青
  波のしづかな
  松浦潟よ
  島も数ある歌どころ
◆名護屋城あと 眺めは廣い
  紅葉散る散る 旗石に
  山はひれ振る
  松浦潟よ
  名所数ある文どころ








▲虹の松原
唐津町の東の入口が本図の巻頭に御紹介した日本屈指の名勝虹の松原である。玉島川の河口より西松浦川口に至る約五哩、南北約一哩の弓形の沙嘴の上に、大小幾十萬の翠松千年の緑を連ね、而も松の葉越には、『松浦潟もろこしかけて見渡せば波路も八重の末の白雲』(後光厳院)と詠まれたる玄界灘を北方に眺め、南には『木の間より領巾振袖をよそに見ていかにやすべき松浦佐用姫』(基俊)と歌はれし領巾振山を仰ぐ、まことに海内無双の勝地である。後方の海岸一帯は松原海水浴場として有名なもの此処に、北九鐵直営の潮湯、貸別荘、娯楽場並に唐津ホテルを含む一大遊園地が設けられてゐる。